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自白第一の時代

 被疑者の人権など無く、拷問で自白を引き出し、そして残虐な処刑方法が公然と行われていた江戸時代。自白がすべてだったゆえに、時として無実の人間が処刑されることも珍しくなかった。
 海沿いの刑場で下男として過ごす健蔵は、初めのうちは罪人の叫びが耳に残り、後ろ髪に引かれるような思いで働いていた。だがようやくそれに慣れはじめたある日、親殺しの罪で磔となった町娘・みのの処刑を執り行う。懸命に無実を訴え、槍を突き刺す直前、自分をにらみつけた目が忘れられなかった。そしてその夜、処刑場を片付けていると、みのが語りかけてくる。
「あたしは誰も殺してなんかいない」
 だが、役人でもないただの下男である健蔵はみのに言った。
「俺に言ったってどうしょいうもない。おめえがやったっていっちまったらそれまでだろ?」
 冷たく言い返した健蔵に、みのはこうつぶやいた。
「あたしにはわかる。これから七日の間に、あんたに焼きつく女が必ず出てくるってね」

 そして健蔵は出会う。みのと同じように、無実の罪で殺された女たちに・・・・。

R15 残酷な描写あり

小説情報 短編 怖い:1 ID:39291中村鉄也

苦労のない穴にさようなら

夜。電気を消してひとつひとつ想像してみてほしい。
半開きのドアの向こう。揺れ動くカーテン。笑顔のピエロ。物音がする押入れ。誰もいない二階。片目がない剥製の眼窩。電源を切ったテレビ。薄暗くなっていく閉店間際のデパート。奥の見えない林。何かをクチャクチャ食べる音。窓の影。自販機の下。天井の端。
何かがいるような……。
それは明るい場所には現れない。恐怖は暗闇に形を得るのだ。
私達は殺した友達を捨てるため、立入禁止の地下工場跡地へと下りていく。暗闇が支配する地下深くへと――。

R15 残酷な描写あり 女子会 グロ クトゥルフ神話 サスペンス

小説情報 短編 怖い:89 ID:50675誇大紫

魑魅

 
 近づくと、黒猫は威嚇の声をあげて僕をにらみつけた。
 病的に濁った瞳。骨張った身体。逆立つ黒毛には艶がなく、ところどころ禿げあがっている。
 さらに一歩近づく。猫は身体を震わせるだけで、逃げようとしない。
 ノラ猫。
 僕は飼い猫でないことに安堵し、それから、安堵した自分に舌打ちする。
 ノラ猫でも飼い猫でも、失われるものに変わりはない。
 同じ命だ。
 また一歩、近づく。
 黒猫は一段と鋭い唸り声をあげる。
 でも、それだけ。逃げることはない。
 逃げたくても逃げられないのだ。
 極度の栄養失調と、病に冒された身体。
 けれど、何よりも大きな枷《かせ》となっているのは――
 僕は嫌悪と怒りを込めて、それを見る。
 痩せこけた黒猫の背中から飛び出ている、ブヨブヨとした白い突起。
 突起は親指ぐらいの太さで、先端は丸みを帯び、黒い横筋が幾つも―― ちょうどミミズの腹のように―― 刻まれている。
 それは蠢く度に猫の背に埋まっていき、既にほとんどの部分を溶け込ませていた。
 ああ、駄目だ。
 僕はやるせないため息をつき、距離のなくなった猫の前にかがみこむ。
 
 こうなったら、もう助けられない。




                 よろしければ、お読みください。

短編

小説情報 短編 怖い:2 ID:83885つちふる

偏食悲劇

神さまってのは、理不尽だよな?

まあそう思わないっていうなら、それでもいい。

きっと君はあれだろ? 「あの時の○○があったから、今の自分がある」とか、堂々と言えちゃうタイプの人間だろ?
本来は成立しないはずの項目を無理やり因果で縛りつけて、歪な公式を作っちゃう人間なんだろ? だって公式なんだから、それに当てはまらない事例はすべて誤りだってな感じの。

うん。でもまあ、それでもいいんだ。きっとそれは正しいんだから。

希薄な過去とリンクさせ、今を生きるための糧とする。
その理不尽なやり方は、こと生きるという側面に対しては実に理にかなったやり口だ。
それをおれは肯定し、同時に激しく希求する。だって現在進行形でいじめられているおれには、その方法論は適用できないからね。

さっさといじめを過去に、さらには思い出として語れる立派な大人になりたいのだが、なかなかそうはさせてくれない。未だおれにとって、神さまは理不尽なままだった。

そしてそんなある日、おれは一人の女の子と出会うはめになった。
クソそのものの環境で成された、クソのような出会い。吐き気と自嘲のボーイミーツガール。
神さまおれ達に幸あれ。もしくはてめーもここに来い。

小説情報 短編 怖い:13 ID:356545おおたに

哀眼(あいがん)

人の家を覗くことが趣味な主人公。幼い頃から人のことを観察するのが大好きで、他人のことばかり見ていた。大人になってもそれはやめることが出来ない。今日もいつものように人の家を覗き、自分の家に帰ったのだが、次の日に目が覚めたら目がひとつ増えていた。お腹に出来たその目はただ、まばたきをするだけで害はないようだった。しかし、気が付いたら目はだんだんと増えてきて……。目が増えてくる恐怖、消えることのない目、そんな異常な状態に主人公はおかしくなっていく。

R15 残酷な描写あり

小説情報 短編 怖い:15 ID:335655KI

ラッキーアイテム

私はある日、通勤途中に電車とホームの隙間に落ちかけた。その時は親切な人に助けられ事なきを得たのだけれど、私はそのときあるものを目撃していた。それは、特に注意して見なければ「たまに見るよね」程度に流しちゃうようなものだったのだけれど、私は気になってしまった。それ以来、毎日それが気になって見るようになり……私はある秘密に気づいてしまう。その秘密を、もしも知らないままでいたら、私は命を失っていたかもしれないほどの。それでもなお、私はその秘密を知りたくはなかった……。

怪談 悲恋 呪い 世にも奇妙な物語

小説情報 短編 怖い:47 ID:188588だんぞう

使用人異聞

 初めまして。私は三利清香と申します。
 私の勤めております藤井家のご息女、葉子様は、大変仁徳あふれるお方でした。美しく、聡明で、その上優しいとあれば、使用人である私がどれほど懐いたのか、想像に難くないでしょう。ええ、本当に、本当に私は葉子様を尊敬しておりました。だから、彼女が黙っていてほしいと思うことは、私は死んでも決して口外しないつもりです。

 これは、とある名家の、使用人の話。
 ≪女学院シリーズ第2作目≫
※1作目「天文部奇談」はすでに公開させていただいております。

ミステリー 使用人 尊敬 文学作品のネタバレ 旧家 富豪 ダーク

小説情報 短編 怖い:20 ID:266681新海莉子

薬指メアリー

「退屈だなぁ」
「そう?」
「外は雨だし。テレビもつまんねぇし。なぁーんか面白い話ねぇの?」
「どんな?」
「どんなって別に……あ、悪ィ。ちょっと携帯……うん。あぁ。今? いや、仕事。マジで。1人だって。うん……わかってるよ。今度な、今度………」
「………」
「なんだよ。友達だって。そんな眼で見んなよ」
「………」
「なんだよ……」
「………」
「なんだよ!」
「ねぇ」
「ん」
「……面白いかどうかは、わかんないけど」
 ひとつ、怖い話をしてあげる。

残酷な描写あり サスペンス 怪談 女こわい ドロドロ 後宮 浮気者の末路

小説情報 短編 怖い:20 ID:331152雪麻呂

鞄の中の心臓

 あなたは夏期休暇を利用して、久々に帰省することにした。
 さびれた地元駅前の風景は見たところ、昔とほとんど変わっていないようだが、さほど懐かしさは覚えない。むしろその進歩のなさに、呆れに近い感覚さえ抱いてしまう。
 昼間だというのに人通りもまばらな田舎の商店街を、ぶらりと歩く。するとあなたは、ふいに見覚えのある顔とすれ違う。
  「あれ、お前もこっちに来ていたのか。奇遇だな」
 小中学が同じで、その頃よく一緒に遊んだ友人。まともに会うのはもう十年ぶりだ。
 あなたは彼と共に、近くの喫茶店に入ると、再会を喜びあった。話題はやがて互いの近況や生活状況、仕事内容等へと、とりとめなく移ろっていき、最終的には思い出話となった。
 さて、しばしの歓談の後、一度手洗いに立ったあなたが席に戻ると、どことなく改まった様子で友人が言った。
 「なあ、昔話ついでに、ひとつ聞いてもらいたい話があるんだが……」
 突如語られ始めた、奇妙な話。
 
―――『あれは、俺たちが小学校6年生のときだったかな。クラスメイトに、クロカワっていう女の子がいただろ?』―――。

はじめは何の気なしに聞いていたあなたは、次第にその話の内容に胸騒ぎを覚える。

クトゥルフ

小説情報 短編 怖い:1 ID:171401辻端耕太郎

弔い明けの夏

三十二年前、ある高校で大事故が起こった。給食室で出火、大爆発の末に校舎が炎上し、生徒や教師が多数、焼死した。
 校舎から運び出された焼けただれた遺体に、人々は目を覆い、号泣し、若すぎる高校生たちの死を悼んで年忌がくるごとに彼らを偲んだ。けれども、今は死んだ生徒たちを直接、知る者は学園にはいない。法要はイベント化し、跡地に建て替えられた新校舎は、”成仏できない生徒の霊が出る”などという怪談まがいの噂が立ち、夏休みのかっこうの肝試しの場所となってしまっている。

 今年の夏の三十三回忌をもって、火災事故の被害者の法要は最後の年忌とし、それ以降は法要は行われない。それを「弔い上げ」あるいは、「問切り」と呼ぶのだ。
 そんなことには、興味のない生徒たちによって、今夜も学校の校舎で、肝試しが行われる。
 ―― 今年の校舎はかなりヤバい。「弔い上げ」を告げられて、忘れ去られる運命の寂しげな亡霊たちが、こぞって友を間引きに来てるから ――
 高校生の榊隼人には、校舎に巣食う身の毛もよだつような霊が視えた。だが、肝試しメンバーの中の一人の少女に心奪われた彼は、知らず知らずのうちに彼らの後を着いていってしまうのだった。 
 

残酷な描写あり 高校生 32回忌

小説情報 短編 怖い:16 ID:13910RIKO(リコ)

 
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